今年の十五夜、中秋の名月は、9月25日。
すすきを飾り、お月見団子を供え、まんまるなお月さまを眺める ― 日本の秋の、美しい行事である。
私の師匠が、こんな話をしてくれたことがある。昔は、すすきと里芋をお供えして、家のなかの灯りを消し、外の月をただ眺めたのだという。きぬかつぎ(里芋を皮ごと茹でたもの)をいただきながら、家族みんなで語らう。電気を消して、月明かりだけで過ごすひととき。聞いているだけで、心が静かになっていくような、豊かな時間だ。
実はこの中秋の名月、別名を「芋名月(いもめいげつ)」という。里芋を供える風習があるからだ。そして、この「芋」をはじめとする秋の食べ物には、東洋医学の目で見ると、ちゃんと意味がある。お月見は、ただ美しいだけでなく、秋の体を養う知恵でもあったのだ。
なぜ、秋に「白い食べ物」なのか
東洋医学では、秋は「肺(はい)」と関わりの深い季節とされる。そして秋は、乾燥(燥邪・そうじゃ)に弱い季節でもある。
夏のあいだ、私たちは汗とともに、体を潤す水分(陰)をたくさん流し出している。その消耗が回復しきらないまま秋を迎えると、喉が乾く、肌がカサつく、空咳が出る、便が乾く ― そんな「乾きのサイン」があらわれやすくなる。
この乾燥から肺を守り、体に潤いを取り戻してくれるのが、白い食べ物だ。東洋医学では、五行の考えにもとづいて、白い色の食材は肺をうるおし、養うとされている。秋に白いものを食べるのは、理にかなった養生なのである。
秋にいただきたい、白い食べ物
里芋(きぬかつぎ)
十五夜の主役。里芋は、胃腸(脾胃)の働きを助け、体に潤いを与えてくれる。あのねっとりした食感そのものが、潤いの恵みである。皮ごと茹でて、するりと皮をむいていただくきぬかつぎは、素朴だけれど、秋のごちそうだ。
梨
秋の乾燥には、まず梨。みずみずしい果汁が、肺をうるおし、喉の渇きや空咳をやわらげてくれる。「乾いたな」と感じたら、まず梨を一切れ。
れんこん
れんこんも、肺をうるおし、乾いた咳を鎮めるとされる。すりおろして汁物にすれば、とろみが喉にやさしい。
山芋(長芋)
滋養の食材。胃腸を助け、潤いと元気を補う。すりおろしてとろろにすれば、食欲の落ちる季節にもするりと入る。
白きくらげ・百合根(ゆりね)
どちらも、潤いを補う食材として、昔から珍重されてきた。白きくらげはデザートにも、百合根は茶碗蒸しなどに。秋の食卓に、そっと潤いを添えてくれる。
大根
消化を助け、喉や肺をうるおす。涼しくなってきたら、温かい大根の煮物や、おろしでいただきたい。
月を眺めながら、季節をいただく
師匠の話のように、灯りを消してお月さまを眺めながら、きぬかつぎを味わう ― そんな夜が、年に一度くらいあってもいい。
旬のものは、その季節に体が必要とするものを、ちゃんと備えてくれている。十五夜にお供えする食べ物が、ちょうど秋の乾燥をうるおす食材だというのは、きっと偶然ではないのだろう。昔の人は、暮らしのなかで、季節と体のつながりを知っていた。
今年の十五夜は、お月さまを眺めながら、白い食べ物で、体をそっとうるおしてみてください。
季節は、めぐります。その流れに、静かに体を添わせていけたらと思います。
合掌
