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梅雨どきの痛みと憂鬱に。湿邪とともに生きる、東洋医学と禅のやさしい知恵

目次

はじめに ― 雨とともにやってくる、あの重さ

湿度が増してくるこの季節、私はとても憂鬱になります。

まず、痛みが増える。体が重い。やる気がおきない。 頭痛、膝の痛み、腰痛……毎年のことなのに、やっぱりつらいものはつらい。

体の表面は熱く感じているのに、お腹に手を当てると、ひんやり冷たい。 そんなちぐはぐな状態に、心まで湿ってしまいそうになる方も多いのではないでしょうか。

今日は、鍼灸師として、そして仏門に身を置く者として、この「梅雨どきの不調」を東洋医学と仏教の両方から深掘りしてみたいと思います。

二十四節気でみる、いまの季節

暦の上では、6月初めの「芒種(ぼうしゅ)」から「夏至(げし)」へと向かう頃。芒種は稲や麦など穂の出る穀物の種をまく時期、そして夏至は一年でいちばん昼が長くなる日です。

昔の人は、この細やかな季節の区切りとともに、田に水を張り、雨を待ち、体を整えて暮らしてきました。

ただ最近、「季節が昔と違ってきたな」と感じることはありませんか。 梅雨入りの時期がずれたり、急に真夏のような暑さが来たり。暦どおりにいかない年が増えたように思います。

それでも――いえ、だからこそ。 ふと立ち止まって、周りの風景、空の色、雲の動き、夜の月の様子を感じてみてほしいのです。暦と現実のずれさえも、「ああ、季節は生きて動いているんだな」と教えてくれる気がします。

東洋医学からみる梅雨の不調 ―「湿邪(しつじゃ)」のしわざ

東洋医学では、梅雨どきの不調の主な原因を「湿邪」と考えます。

湿邪には、こんな特徴があります。

  • 重く、にごる … 体が重だるい、頭が締めつけられるように痛い、むくむ
  • 下にたまる … 膝の痛み、腰の重い痛み、足のだるさ
  • 粘って、停滞する … 症状が長引き、すっきり抜けない

私の頭痛、膝の痛み、腰痛、そして「やる気がおきない」感じ。これらはすべて、湿邪の性質そのままなのです。

さらに東洋医学では、五臓の「脾(ひ)」――消化吸収と水分代謝をつかさどる働き――は湿気にとても弱いとされます。脾が湿に負けると、体内の水はけが悪くなり、「水滞(すいたい)」と呼ばれる状態に。むくみ、重だるさ、食欲不振、気分の落ち込みまでつながっていきます。

「体は熱く感じるのに、お腹は冷たい」のも、水分代謝が乱れて、温かい気が体の表面に浮き、お腹の芯が冷えているサインといえます。

私のセルフケア① 手のひらでお腹を温める「手当て」

私は、冷たいお腹に自分の手のひらをそっと当てて温めています。

これは、昔気功を習っていたときの体験がもとになっています。稽古を重ねるうち、手のひらの中央――「労宮(ろうきゅう)」というツボのあたり――に、気がじんわり集まる感覚をはっきり覚えました。

しばらくお腹に手を当てていると、本当に気持ちがいいのです。 手のひらのぬくもりが、ゆっくりお腹の奥へしみていく。呼吸が深くなり、心までゆるんでいく。

「手当て」という言葉は、まさにここから来ています。 特別な技術がなくても大丈夫。あなたの手のひらにも、ちゃんと温める力があります。寝る前に布団の中で、おへその下あたりに両手を重ねて、ゆっくり呼吸してみてください。

私のセルフケア② 漢方薬で「水」を整える

頭痛がひどいときには、五苓散(ごれいさん) を飲んでいました。 五苓散は、体内の水分の偏りを調整してくれる漢方薬。余分な水を必要なところへ巡らせ、いらない分は外へ。雨の日の頭痛や、むくみを伴う重だるさが、ずいぶん楽になりました。

そして今、私は更年期ということもあり、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう) を飲んでいます。 こちらは、水分代謝を助けながら「気」を補ってくれる処方。汗をかきやすく、体が重く、膝に水がたまりやすいような体質に向くとされ、更年期の私の体にはこちらのほうが合っているようです。

※漢方薬は「症状」ではなく「体質(証)」に合わせて選ぶものです。同じ頭痛でも合う処方は人それぞれ。気になる方は、漢方に詳しい医師や薬剤師さんにぜひご相談くださいね。

私のセルフケア③ 足から整える ― 反射区・ツボ・半身浴

湿邪は下半身にたまりやすいもの。だから、足からのケアがよく効きます。

  • 足裏の反射区を刺激する … 腎臓・膀胱の反射区(土踏まずからかかと寄り)をやさしく押すと、水はけの応援に
  • ツボ刺激 … 足裏の「湧泉(ゆうせん)」、すねの内側の「陰陵泉(いんりょうせん)」は、湿をさばく代表的なツボです
  • 半身浴 … みぞおちから下をぬるめのお湯にゆっくり浸けると、下半身の巡りがよくなり、腰痛がやわらぎます

私自身、足の反射区をねらってツボ刺激をしたり、半身浴をしたりすると、腰の痛みがすっと軽くなるのを感じています。汗とともに、心の湿気まで流れていくようです。

仏教の眼差し ― 雨を「困りごと」から「いのち」へ

ここで少し、仏教のお話を。

道元禅師は、谷川のせせらぎも山の姿も、そのまま仏の説法である――「渓声山色(けいせいさんしょく)」と示されました。

それなら、この梅雨の雨音もまた、説法なのかもしれません。

雨は、田を潤し、紫陽花を咲かせ、すべてのいのちを養う水です。 湿邪として私たちを悩ませる「同じ水」が、世界を生かしてもいる。 良い・悪いと切り分けているのは、実は私たちの心のほうなのですね。

体が重い日、痛みのある日は、「今日は雨の日の自分」として、そのまま受けとめる。 無理に晴れの日の自分と比べない。 雨の日には雨の日の過ごし方がある――ただそれだけのことなのだと、痛みに教えられる気がします。

おわりに ― 空を見上げる、ほんの一呼吸

季節のかたちは、昔と少しずつ変わってきているのかもしれません。

それでも、雨上がりの雲の流れ、夕暮れの空の色、夜にふと見上げた月の満ち欠けは、いまも変わらず、私たちのそばにあります。

傘をさして歩く道すがら、ほんの一呼吸、立ち止まってみてください。 紫陽花の葉にのった雨粒、遠くの山にかかる霧、湿った土の匂い。

体の痛みも憂鬱も、季節とともに巡るもの。 手のひらの温もりと、足元からのケアと、そして「いま、ここ」の景色をたよりに、この雨の季節をいっしょにやわらかく越えていきましょう。

今日もお読みいただき、ありがとうございました。 合掌


この記事は一般的な養生の知恵をご紹介するものです。強い痛みや長引く症状がある場合は、医療機関の受診をおすすめします。

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